(財)報農会は、幅広い事業活動を通して、植物防疫に関する人材の育成や学術・技術の研究支援、
功績者の表彰、交流の場の提供などを実施している財団法人です。



ろまん報農(34号)



過去の号:33号(平成18年12月15日)
第34号抜粋
(発行:平成19年7月18日)
目      次
故土居養二先生を悼む 山下 修一 東京大学
土居養二先生のご逝去を悼む 吉田 孝二 (財)報農会・顧問
第232回米国化学会国際会議に参加して 小原裕三 (独)農業環境技術研究所
編集後記 塩澤 宏康 (財)報農会常務理事
会員消息 編集局
故土居養二先生を悼む
東京大学 山下修一
 土居養二先生(東京大学名誉教授、元報農会理事)は平成18年8月22日に逝去されました。先生の研究・教育者としての偉大性は各分野で紹介されると思われます。 先生とは身近に昭和45年からお付き合いさせて頂きました。先生は昭和26年に東京大学卒業後農林省に奉職されたが、家業の都合でこれを中断されました。しかし、昭和39年に東京大学の研究生として学究に戻られた後には電子顕微鏡、ウイルスについて高い関心を有せられ、植物ウイルスの探索とウイルスの細胞内所見を広範に探究されました。ウイルスは細胞内所見で分類されることも解明され、「植物ウイルスの細胞内所在と存在様式に関する研究」で学位を得られました。研究生を始められたわずか3年のうちに、長年、ウイルス病と信じられていたクワ萎縮病を含め、世界中で問題となっていた多数の萎黄叢生病の病原が植物では記載のないマイコプラズマ様微生物(MLO)によることを発見されました。これは先生からすれば副次的な結果かも知れません。本業績に対して学士院賞、日本農学賞、学会賞、アメリカ植物病理学会賞を含め、多くの賞が授与されました。MLOに関する原著論文は日本植物病理学会報に和文で発表されたが、これにより同誌の国際的評価が格別に向上したといわれます。また、ジャガイモ葉巻ウイルスが師部局在性であることを解明されました。これにより、師部局在性のMLOやウイルス、導管局在性のリケッチア様微生物、乳管などに局在する植物寄生原虫の発見にも寄与したと思われます。植物ウイルスの細胞内所見はウイルス性状の特徴付けに重要な項目でありますが、先生はこの基礎を築かれました。更に電顕技術の開発にも尽力され、ウイルスの検出法、超薄切片法なども検討され、超微細構造解析の分野を開拓されました。先生は研究生時代、殆ど徹夜と伺っています。先生には多数の独創的な業績がありますが、その多くが公表されていないことは、残念な次第です。先生の控えめな言動が思い出されます。
 先生は病気の主因である病原学の重要性を主張されていました。先生は東京生まれで農業現場は不得手と想像しましたが、絶えず関東各地を中心に採集に積極的に出かけられました。先生とは常々採集にお伴させて頂き、多くのウイルス病、細菌病、菌類病、貯蔵病、生理病、線虫病、フシダニ病などと接することができました。これらから多数の新病原や病害が発見されました。先生は何事にも高い関心を払われ、また、自身で集中して取り組まれていました。アイデアに富まれ、ある著名な方によると先生は数十年に1人の学者ではないかと評されていました。先生の薫陶を授かった教え子たちが今日、各地で活躍されていることを生前、大変に喜んでおられました。先生は大学の内外、学会等で多くの要職を歴任され、社会の発展に多大な寄与をなされました。
 先生は近年の公共研究機関、大学などの組織換、予算等について懸念され、現場・基礎研究無視、論文偏重主義を早くから案じておられました。農薬についても、「農」における「薬」は過去において社会に大きな貢献をもたらしており、将来においても積極的な開発を希望されておられました。
 かけがえのない先生を亡くしたことは残念のきわみです。先生のご遺徳を称え、偲び、ご冥福をお祈り申し上げます。
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土居養二先生の御逝去を悼む
吉田 孝二
 元報農会理事、東京大学名誉教授 土居養二先生には平成18年8月22日、肺ガンのため79歳で逝去されました。報農会に寄せられた多大なご支援に感謝し、謹んで哀悼の意を表します。
  先生は、昭和2年、東京都に生まれ、戦中・戦後の混乱期を東京で過ごされました。昭和26年3月、東京大学農学部農学科(植物病理学講座)を卒業、同年4月、農林省農業技術研究所病理昆虫部病理科に就職されましたが、当時の戦後の苦境も意に介することなく、前向きで研究熱心な、そしてヨットを楽しむ好青年でした。研究者に必須な斬新な発想を既に十分備えておられました。昭和29年、惜しまれながらも家業(光学器機製造)を継がれるためにビューティカメラ(株)に転職されましたが、昭和39年には東京大学農学部、植物病理学講座に研究生として戻られ、以後41年助手、46年助教授、56年には教授(農学部植物病理学講座担任)に任命され、研究・教育の道を一筋に進まれました。この間、世界的にも顕著な多くのご功績を挙げられ、学会の発展に寄与・貢献されました。昭和62年3月東京大学を退官され、同年5月には名誉教授の称号を贈られました。現在、先生の薫陶を受けた多くの人材は多方面で活躍の輪を拡げています。
 先生の優れた多くのご業績の中でも「クワ萎縮病その他の植物萎黄病の病原体に関する研究」は特筆されます。明日山秀文先生、輿良 清先生、寺中理明先生、石家達爾先生らとの共同研究により、従来、ウイルス病と考えられていたクワ萎縮病その他の植物萎黄病の病原体が、マイコプラズマ様微生物であることを世界で初めて発見したもので、この偉大な功績により、日本植物病理学会賞、日本農学賞を初め国内外の多くの大賞を受けられました。昭和53年には最大の賞である日本学士院賞を明日山先生、輿良先生と3名で受賞されています。卓越した独創的な、そして長年の真摯なご研鎖の賜と心からお慶び申し上げる次第でございます。
 先生は、平成3年1月1日、報農会の理事に就任され、その広いご学識と、こだわらない発展的ご発想から事業の推進を指導して下さいました。晩年は、胃、心臓、肺臓に次々と重い障害を受けられながら強靭なご意志で克服され、理事会には必ず出席されてご指導下さいました。特に毎年実施されている報農会シンポジウムには、理事就任以来15年もの間、シンポジウム開催実行委員会の理事会側委員として尽力され、発展に多大な寄与をされました。同日開催の功労者表彰式の盛会にも大変なご協力をいただきました。更に報農後援会(報農会の事業発展のため、報恩会育英学生を中心として有志が集まって発足した後援会)の事業、運営に対するご援助は長期に亘って絶大なものがありました。感謝の外はございませんでした。
 報農会シンポジウム会場の受付で、また、懇親会会場で、多くの参加者と歓談される先生の温和なご容姿は未だに目に残って忘れられません。ここにご生前の先生を偲び、心からご冥福をお祈り申し上げます。
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第232回米国化学会国際会議に参加して
独立行政法人 農業環境技術研究所
             有機化学物質研究領域 小原 裕三
 2000年9月10日から14日に、米国サンフランシスコにて232nd American Chemical Society National Meeting & Exposition(第232回アメリカ化学会国際会議)が開催され、参加しました。
 この国際会議は、アメリカ化学会が年2回定期的に開催する国際会議の秋季開催分である。会議は,化学に関連する分野を広くカバーしており、毎回1万人以上の参加者がある大規模なものである。今回は、Division of Agrochemical(農薬部門)の中で、特別シンポジウム「Alternatives to the use of methyl bromide in pre-plant soil fumigation and stored commodities(植え付前土壌くん蒸処理と倉庫くん蒸処理における臭化メチルの代替技術)」が開催され、シンポジウムの責任者Luis Ruzo氏より講演依頼を受けた。しかし、招待講演ではあるが旅費は支給されず、自分で旅費の工面を考えなければならず、自費での渡航かと思案していましたが、幸い報農会の海外渡航費の援助により参加することができました。
 土壌くん蒸用途の臭化メチルは、オゾン層破壊物質に関するモントリオール議定書締約国会議において規制対象物質とされ、2005年1月1日をもって全廃されました。何故、今更代替技術の国際シンポジウムが企画されたかとの考えをお持ちの方と多いと思います。これは、現状の技術では代替が可能でない場面が多々あり、不可欠用途として2005年以降も各国政府による審査と申請に基づいて、締約国会議で妥当性が認められた場合に限り、使用が許可され使用されている現実があるからです。1991年を基準年として臭化メチルの出荷量の規制が行われてきたが、2007年には米国で4,316トン(基準年に比較して26%)、日本で636トン(10%)、EC(欧州共同体)で689トン(3%)、イスラエルで967トン(27%)が不可欠用途として規制対象除外としての使用が認められている。規制除外対象は、各国の気候風土や対象の作物や病害虫が異なることから、一律ではなく個別に審査が行われている。この不可欠用途としての適用除外については、年毎の申請が必要であり、代替技術の開発の努力と臭化メチルを使用する際にも大気放出の削減努力が義務づけられている。
  私は、「Risk trade-off between methyl bromide and alternative chemicals,and techniques for reducing emissions in Japan(臭化メチルと代替薬剤間のリスクトレードオフと日本における大気への放出削減技術)」の演題で講演を行いました。発表した内容は、日本において臭化メチルの代替薬剤としてクロルピクリン剤、D-D剤、ダゾメット剤等が現実的なものとされているが、これらの薬剤に代替することによるヒトや環境へのリスク評価を関東地方の大気濃度分布を評価することで行った。標準的な処理方法で土壌くん蒸を行った際の大気への放出量を圃場で実測するとともに、これらの薬剤の出荷動向などから今後の出荷量を予測し、曝露・リスク評価大気拡散モデルAIST-ADMER(National Institute of Advance Industrial Science and Technology-Atmospheric Dispersion Model for Exposure and Risk Assessment)を用いて大気濃度の評価を行った。結果は、現状の処理方法のまま代替薬剤に移行することは、臭化メチルに比較してリスクは相当大きくなり、代替薬剤に移行する際にも大気への放出削減技術の適用が必要なことが分かった。D-D剤の場合には、被覆資材を用いないで土壌くん蒸を行う場合が多く、土壌表面を被覆資材により被覆することで相当程度リスク削減を行うことが可能であり、可能であればバリアー性被覆資材を用いることによって一層リスクを削減することが可能である。このことは、くん蒸剤の処理量の削減にも大いに有効である。我々が以前行った光触媒を用いた被覆資材により、太陽光をエネルギー源にくん蒸剤をその場で徐々に分解することで、大気への放出量を削減する技術についても紹介したが、予想外に大きな反響があり、米国などから共同研究の打診があったことは意外であった。
 日本からは他に楯谷昭夫氏(シンジェンタ ジャパン株式会社)が「Current situation of alternative technologies to methyl bromide for pre-plant soil fumigation in Japan(日本における植え付け前土壌くん蒸での臭化メチル代替え技術の現状)」の演題で、日本における代替技術(薬剤)の現状について、幅広く紹介した。 臭化メチルの代替技術として、代替薬剤の適用(化学的防除)、太陽熱や熱水、蒸気消毒(物理的的防除)、生物農薬や拮抗微生物の探索・導入(生物的防除)、病害性抵抗性品種および抵抗性台木の導入、アブラナ科植物の鋤込み、完熟堆肥の施用、菌根菌の接種や輪作(耕種的防除)の単用あるいは組み合わせなどがあり、開発と普及が鋭意進められてきた。しかし、これらの代替技術は、防除効果と安定性、環境への影響、経済性等の観点から、現状において臭化メチルに完全に代替することは困難な状況であり、クロルピクリン剤、D-D剤、ダゾメット剤等が現実的で最も有望な代替技術であることは、本国際会議に参加した研究者の間で一致した認識のようであった。米国環境保護庁(US EPA)では、土壌くん蒸薬剤の評価を行っており、同様な使用方法で暴露経路と暴露レベルが同様に考えられる6つの土壌くん蒸剤を1つのグループとして、ヒトへの健康リスク評価を開始した。これには、臭化メチル、カーバムナトリウム、クロルピクリン、ダゾメットと1998年に再登録された1,3-ジクロロプロペンとまだ登録が得られていないヨウ化メチルが含まれている。この際には、各々の薬剤間での評価に矛盾が生じないよう、同一の方法によりリスクとベネフィットの評価を行うこと、また、全ての土壌くん蒸剤で今後必要となるリスク軽減方法を開発することが目的である。本国際会議では、その評価に関する内容が多くあり、圃場周辺の大気濃度をモデルなどによって評価を行った結果についてのものなど発表が多くあった。
 最後に、臭化メチルは天然にも発生起源が存在し、最近でも新たな発生源が次々と報告されているが、こうした天然の臭化メチルのサイクルに比較して影響のない程度にまで人為的放出を早急に削減することが必要である。言い換えれば、代替薬剤によるリスクの増加や経済的な損失があるのであれば、極端な全廃ではなく、天然の臭化メチルのサイクルに比較して影響のない程度であれば、使用を許容するような方策も可能ではないかと感じた。今回、この会議に参加して、多くの研究者と話すことにより、自分の研究について考え直す機会となり、今後の研究の励みになりました。このような機会を与えていただいたことに、重ねてお礼を申し上げます。
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編集後記
 今年は、6月までに全国の所々で集中豪雨があり被害をもたらしたにも拘わらず、例年に比べると降雨量の多い地区でも6割強、全国的には4割を切っているようで空梅雨気味です。また冬季の降雪量も例年に比べて少なかったため、両方の現象が重なって夏季の渇水が大変心配されるところであり、水田が基本の農業国である日本にとっては、稲作への痛手も案じられます。
 植物に目を転じて見ると、立ち葵の開花こそ夏の風物詩であり、夏に向けて暑くなるのを目で確かめる植物の一つではないかと思います。例年ではこの立ち葵が咲き終わると暑かった夏も終わりに近づいていると感じたものですが、今年の場合は6月に入って咲き始め、7月にならないうちに無限花序である花の先端までが咲き終わってしまうようなものも散見され、花の咲く時期が早まったように思われます。また、昨年の九州地区での水稲栽培では、出穂してからの気温が例年より高温であったため、夜間の呼吸による自己消化が大きく米粒も正常な形ではなかったようです。従って作況指数も低くなり全体的に減収につながったのではないかと考えられます。これらのことからも地球温暖化がすでに目に見える形にまで進んでいるのは確かなようです。
 農業は国の柱であり、農業こそがその国の生きていく力のバロメーターとなります。その農業において安定した十分な生産が上げられないようでは、その国の将来が危惧されます。
  報農会の「報農」は、自然に親しみながら食を生産すべく農に勤しみ、農業生産に親しみながら自然からの恵みと豊かさを授かることであり、「報農」の精神を知るものはそれを広く世間に伝搬し、植物防疫の概念に立脚した農業を営みつつ自然との融合を図っていかなければなりません。
 今号の「ろまん報農」に土居先生の追悼文をご寄稿いただきました吉田様、山下様、並びに国際会議出席報告をいただきました小原様にこの紙面をお借りしてお礼申し上げます。  会員通信である「ろまん報農」を末永く維持して行くと共に「報農」を世に知らしめていきたいと思いますので、会員の皆様の特段のご協力をお願い致します。(塩揮宏康)
会員消息
○ 叙勲に輝く特別会員  
 平成19年春の叙勲受章者が発表され、上垣隆夫氏(報農会評議員)には、瑞宝小綬章を、館野浩一氏(報農会理事)には、藍綬褒章を受章されました。心からお慶び申し上げます。

○ 農学賞に輝く育英会員  
 米山勝美氏(報農会評議員・報農後援会監事)には、日本農学賞(読売農学賞)を受賞され、4月5日、東京大学山上会館で授賞式が行われました。心からお慶び申し上げます。  
   受賞研究:植物病原菌の病原因子の解明と病害抵抗性植物の創成に関する先駆的研究

○ 新入会員(平成18年12月1日~平成19年5月31日)  
   特別会員 田村多利氏  米山伸吾氏 (以上2名)
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